怪奇現象のはじまり

怪奇現象のはじまり

私は子供のころから、霊的なものに敏感でした。お風呂に入っているときに、誰もいない家のなかを行き来する足音が聞こえてきたり、夜中に金縛りにあったり。

忘れられないのは、高校時代の出来事です。

パタッ、パタッ、パタッ、パタッ……。

真夜中、階段を上る足音で目が覚めました。

(誰も上がって来るはずないのに……)

不信に思って息をひそめていると、その足音が、私の部屋の前でぴたりと止まりました。

(だ、誰?)

とっさにドアの方を振り向いた途端、心臓が凍りつきました。そこに、青白い顔をした女の幽霊が立っていたのです。

「──!」

慌てて布団をかぶり、きつく目を閉じました。

(消えて! 早く消えてー!)

私はその恐ろしい出来事を、両親にも二つ上の兄にも言い出せませんでした。それ以来、電気をつけたまま寝るようになりました。

嫁ぎ先でも……

高校卒業後は美容師の資格を取り、市内の美容院で働きました。

しかし、私はとても疲れやすく、5日間続けて出勤することができません。当時は、ただ体力がないのか、そういう体質なのだと思っていました。

やがて、美容学校で同期だった男性と結婚。彼の実家に入り、家業の理容店を手伝うようになりました。21歳のときです。

嫁ぎ先でも、霊的な現象は続きました。

家のなかで、家人のものではない足音がしたり、ドアがドンッと音を立てたりします。その度に主人は「誰だ?」と見に行きますが、誰もいません。

日中、お店の壁のなかから、人の話し声が聞こえてきたこともあります。

「はっ、何?」「今、声したよね」。

異様な声に、お客様も驚いていました。

( “霊”って、やっぱりいるんだ)

肌身でそう感じても、やはり怖いので、なるべく気にしないように過ごしていました。

すれちがいの日々

結婚して一年後に長男が生まれ、すぐに年子で次男が生まれました。

私は育児をしながら店を手伝い、さらに理容師の免許を取るために通信教育を受講。同居している義父母は優しく接してくれますが、私の体力が持たず、朝、どうしても起きられない日もありました。

病院で検査をしても、どこも悪くないと言われ、仕事をバリバリこなすタイプの主人は、私の体調を理解してくれません。

「なんだ、また疲れて寝て!」

そんな言葉に、とても傷つきました。

(なんで、分かってくれないの……)

また、主人が頻繁にお酒のつき合いに出かけていくことも、私の心を波立たせました。

「なんで毎日行くの? お金かかるし……」
「俺だって、好きで行ってんでねぇ!」

客商売だから、つき合いが大事なんだと言われても、私だけ二人の乳飲み子を抱えて、置いてきぼりにされたように感じます。

不満や悲しみが、心に溜まっていきました。

体からズレていく自分

体からズレていく自分

子供たちが幼稚園に上がると、主人の勧めもあって、私は近所にお店を借りて美容院をはじめました。従業員は私を含めて三人。

一方で、心身の疲れは増していきます。

(なんで私だけ、こんなに働かなくちゃいけないの)

そう思う反面、体が重くて起きられないときは、自分の体力のなさにイライラします。

子供たちが中学生になるころには、体調不良はもっとひどくなり、だるくて重くて、自分の体ではないように感じるほどでした。

(私、こんなじゃなかったよねぇ……)

さらに数年が過ぎると、奇妙な感覚を覚えました。体と魂が、ズレているように感じるのです。心は常にサワサワとして落ち着くことができません。身の置き所がない、嫌な、苦しい感じ……。

しかしそのうちに、私はもっと異常な状態に陥ってしまったのです。

お客様の髪を切っているとき、もう一人の自分が体から抜け出して、カットしている私を、一歩後ろから眺めています。

道を歩くときも、肉体からはみ出した自分が、歩いている私の後ろ姿を見ているのです。

(なんだろう。私、どうしちゃったの)

お客様と話していても、それは本当の私ではなく、接客する自分をぼんやりと眺めている別の自分がいます。表情は暗く、うつろな目つき。体は鉛のように重たい……。

霊媒師にすがって

私の様子は、傍目にもおかしく映ったのでしょう。あるお客様が心配して、霊媒師を紹介してくれました。

「お祓いしてくれるって。行ってみたら?」

勧められるままに、お祓いを受けました。すると、確かに体が軽くなりました。

「次は、自宅の写真を持っていらっしゃい」

霊媒師に言われた通り、カメラで部屋を写してみて驚きました。たくさんの白い影が、部屋一面に、うわうわと写っていたのです。よく聞く「心霊写真」そのもの。

「これじゃ具合が悪いのも当然よ。しっかりお祓いをしないと大変よ」

私は邪霊を取ってほしい一心で、霊媒師の言葉に従い、足しげくお祓いに通いました。

確かに、お祓いを受けた直後は、邪霊が取れたようなスッキリした感じがします。けれども、しばらくするとまた具合が悪くなり、再び霊媒師のもとへ。それを繰り返すうちに、心身の不調は、なぜかどんどん悪化していきました。

霊に襲われる恐怖

霊に襲われる恐怖

あの恐ろしい出来事が起こったのは、そんなある日の朝のことでした。

朝、布団のなかで目を覚ました瞬間に、私はドーンと真っ暗なところに突き落とされ、奈落の底をめがけて落下していくような感覚に襲われたのです。

(た、助けて──!)

飛び起きたとき、体中からどっと冷や汗が吹き出していました。そのときから、私は常に悪霊が忍び寄ってくる気配に悩まされ、恐ろしさで体の震えが止まらなくなってしまったのです。

「こ、怖い。怖い……」

心臓がドキドキドキドキと早鐘を打ち、体がガタガタと震えて、思うように動かせません。いったいどうなってしまったのか考えようとしても、恐怖で頭が回らないのです。

人前にも出られなくなり、お店は、美容師の友人に任せるしかありませんでした。

家族は霊的なことに敏感ではないため、私が精神的におかしくなってしまったと思ったようです。

主人につき添われて病院に行くと、内科から精神科に回されました。精神科の医師は、「とにかく、家族が目を離さないように」と。自殺する可能性があると、診断されたのです。

しかし、子供たちは学校があるし、主人も義父母も、お店に出ないわけにはいきません。

日中、部屋に一人残されると、部屋中に邪悪なものの気配を感じます。今にも悪霊が一斉に襲いかかって来るような気がして、いてもたってもいられません。

(もう駄目。魂を持っていかれる……!)

どうしようもなく、仕事中の兄に電話をかけました。

「兄貴。助けて……」

幸福の科学の支部へ

兄はすぐに状況を察して、駆けつけてくれました。両手にいっぱい、テープや書籍を抱えています。

「大川隆法総裁先生の御法話は、光が強いから悪霊が嫌がって逃げていくんだ。とにかく、昼も夜も、一日中テープをかけておいて」

兄は以前から幸福の科学の会員で、総裁先生が説かれる仏法真理の話を教えてくれていましたが、私はそれほど真剣に学ぼうとはしていなかったのです。

私は兄に連れられて、幸福の科学の支部に行きました。初めて入った支部は、何か神聖な光で満たされていて、眩しく感じました。

(ここは確かに、他の場所と違う……)

けれども、体の震えは止まりません。私の周りに、お線香の匂いがまとわりついて、消えないのです。

「お線香の匂い? ここではお線香はたいていませんよ。それも霊的なものですね」

支部長さんは、私の話を聞いてくれた後、こう言いました。

「肉体から自分が抜け出してコントロールできないという状態は、人吉さんに憑依ひょうい(※)している悪霊が、体を乗っ取ろうとしているんです。お祓いで一時的に悪霊が取れることもありますが、自分の心が変わらなければ、悪霊は何度でも憑依してきます。自分の心を良くしていくことを教えずに、不幸の原因を悪霊のせいにして、お祓いや祈祷だけを続けるような間違った宗教や霊媒に通っていると、別の悪霊とも縁がついてしまい、もっと具合が悪くなることもあるんですよ。でも大丈夫、絶対に治ります! 仏法真理を学んで自分の心を変えていけば、悪霊は必ず取れますからね」

支部長のお話は、とても納得できました。

一日も早く、悪霊から自由になりたい──。

私は、その場で三帰誓願式を受けさせていただきました。

憑依ひょうい
悪霊などが取りくこと。霊が地上の人間に憑いて影響を及ぼしている状態のこと。

霊的格闘の日々

『太陽の法』

その日から私は、家にあるカセットデッキで、一日中、御法話を流し続けました。

総裁先生のお声が聞こえると、頭に覆い被さっている厚い雲が、少しずつ払われていくように感じます。

来る日も来る日も、体がきついので横になったまま、御法話に耳を傾けました。すると次第に、総裁先生が説かれる仏法真理の内容が、心のなかに入ってきました。

あの世には、天国と地獄がある。この世で生きている人間が“良い心”を持てば、天国に住む守護霊や天使に通じ、“悪い心”を持てば地獄に通じて悪霊を呼び寄せてしまう──。

ある日、『太陽の法』という書籍を開くと、悪霊に通じるマイナスの心とはどういうものかが書かれていました。

ねたみ、そねみ、感情や本能にもとづく怒り、愚痴、足ることを知らない心、不平不満、悲観的な心、消極的な心、優柔不断、臆病、怠惰な心、自己嫌悪、うらみ、にくしみ、のろい、情欲、自己顕示欲、利己主義、毒舌、二枚舌、躁うつ、酒乱、暴力、排他主義、うそ、いつわり、唯物主義、無神論、孤独、独裁主義、金銭欲、地位欲、名誉欲、不調和

(愚痴、不平不満、悲観的な心……。こういう心は、私のなかにもあるなぁ)

仏法真理に照らして自分の人生を振り返ってみると、間違った心のままに生きてきたことに、たくさん気づかされました。

また、兄が安置してくれた小型の御本尊に向かい、『仏説ぶっせつ正心法語しょうしんほうご』(※)の七つの経文きょうもんを全部読み上げることを日課にしました。起き上がれない日は、横になったままで拝唱しました。

お祈りをはじめて数週間が経ったころ──。

『仏説・正心法語』の経文を拝唱している最中に、突如、お腹の底から何かが突き上げてきました。

「ウヴェェェェェ……」

目に見えないものを、吐き出しました。その後もお祈りのときに、同じようなことが時々起こりました。

※『仏説ぶっせつ正心法語しょうしんほうご
幸福の科学の根本経典きょうてん。大切な七つの経文きょうもんが収録されている。毎日読むことで、天上界と同通し、悪霊を遠ざけ、人生を切り拓く力がある。

支部や精舎しょうじゃに通い続けて

さらに、毎月の悪霊撃退祈願祭には、体を引きずってでも必ず支部に通いました。

(きつい……。でも、ここで負けるわけにはいかない)

激しい倦怠感と闘いながら、やっとの思いで車を運転して、支部にたどり着きました。

けれども、支部の光がとても強く感じられて、なかに入れないのです。祈願書を置くやいなや、式典には出られずに、逃げ帰ることも度々ありました。

そんな私に、支部のみなさんは何かと親切な言葉をかけてくださいました。

「あなたを邪魔している悪霊が、支部の光を怖がっているのよ。必ず良くなるから大丈夫」
「みんな応援してるよ。頑張れ、頑張れ」

地獄の苦しみのなかで、みなさんの励ましが私の支えでした。

兄は休みの日ごとに、幸福の科学の精舎しょうじゃ(研修・礼拝施設)に、私を連れて行ってくれました。車に乗っている間も、自由に動かせない体が、まるで他人のもののように感じます。

けれども、いざ精舎のなかに入ると、不思議なことに自分の足で歩けるようになり、悪霊に追い立てられる恐怖心も薄れていきました。

(やっぱり、幸福の科学の精舎や支部は光が強くて、悪霊が憑いていられないんだ)

精舎の窓から見える美しい景色をぼんやりと眺めながら、一日も早く、この苦しみから解放されますようにと祈りました。

霊が剥がれた瞬間

支部や精舎に通い続けて

そうして、3カ月ほど経ったある日。自室で横になり、総裁先生の御法話を聴いているときのことです。

体の表面が、なにかプルプルと振動しはじめました。そして次の瞬間、私の全身を覆っていた目に見えない膜のようなものが、シュルシュルシュルッと脱げたのです。

「うわっ! 軽くなったー!」

そのときの驚きと爽快感! まるで体中に積った垢の層を丸ごと脱ぎ捨てたように、本当にすがすがしい気持ちになりました。

それは、一度ではありませんでした。

数日後、同じように先生の御法話テープを聞いていると、今度は、白くて長い蛇のような透明なものが、私の体からシュシュシュッと外れて、去っていったのです。

(きっと、蛇か何かの霊が巻きついていたんだ……。だからあんなに体が重かったのね)

数年来の重苦しさが、一気に軽くなりました。

「ああ、すっきりしたー!」

それ以来、体力も徐々に回復し、支部の他の行事にも参加できるようになりました。段々と、頭で考えをまとめられるようになり、精舎で拝聴する御法話の内容も、よく理解できるようになっていきました。

主人の心を考えてみると…

ようやく強烈な憑依から解放された私は、ますます真剣に幸福の科学の教えを学んで、心の修行に取り組もうと思いました。

(悪霊を呼び込んでいるのは、自分の心なんだ。今は、総裁先生の御法話や祈願のおかげで悪霊が取れたけど、私がマイナスの心を持ったら、きっとまた取り憑いてくるわ。これからは、悪霊と同通しないプラスの心を持つようにしよう)

そのためには、今までの自分の心を振り返り、間違った心があれば素直に「反省」することが大切と教わっています。

そこで、まず最初に、主人への思いを反省していきました。

私は結婚当初から、「この人は分かってくれない」と主人を責めたり、自分で傷ついたりすることがありましたが、それは明らかにマイナスの心。仏法真理では「まず、相手を理解することが大切」と説かれています。

主人の立場に立って、考えてみました。

(お互い、21歳で結婚したのよね……)

若くして、妻と子供と両親と店を一気に背負うことになった主人。当時は考えが及びませんでしたが、その責任と重圧は大変なものだったと思います。

さまざまな会合に出かけては人脈を広げていったのも、家族の将来を思ってのこと。なのに私は、自分の大変さでいっぱいで、主人を思いやる余裕がありませんでした。

(私も悪かったなぁ。ごめんなさい……)

毎日毎日、20年に及ぶ結婚生活を思い出し、主人への思いやりが足りなかったことを見つけては、心のなかで謝りました。

すると次第次第に、「主人に私の気持ちを分かってほしい」と思うことよりも、「主人はどんな気持ちだったんだろう」と、主人の気持ちを考えられるように変わっていったのです。

夫婦仲は、以前より格段に良くなっていきました。

心の修行を重ねる

さらに、お店の従業員や学校関係など、いろいろな人間関係を振り返っていくと、自分の“考え方の癖”が見えてきました。

(私は、人の態度や言葉をマイナスに受け取って勝手に傷ついたり、心のなかで相手を責め続ける癖があるわ。プラスに受け取れば何でもないのに、わざわざ自分で苦しみをつくっていたんだ。こういう“心の癖”を直したい)

けれども、長年積み重ねてきた傾向性は、そう簡単には直りません。

(あっ、また悪い方に考えちゃった。なんでこうなのかなぁ)

特に体調が悪い日は、どうしても心境が下がりがちです。体がぐっと重くなり、悪霊が忍び寄ってくる気配を感じます。

そんな時は、とにかく支部や精舎に行って、法友ほうゆう(※)と話をするようにしました。するとそれだけで、疲れていた心に力が戻り、一人では変えられなかった心を明るい方向に切り替えられるようになるのです。

そんなふうに、毎日毎日、心の修行を続けていくうちに、あるとき、ふと気づきました。

(あれ? 私、人の言葉に傷つかなくなってるわ)

以前なら悪く受け取って落ち込んでしまうような場面でも、自然と受け流して心に溜め込まなくなりました。むしろ、相手の方の気持ちや立場を考える習慣がついたので、心が不安や不信で波立つこともなくなり、対人関係での悩みはほとんど持たなくなっていったのです。

(自分の心を変えることで、悪霊にも取り憑かれなくなるし、悩みも解決できる。この教えを実践すれば、必ず幸せになれる……!)

仏法真理への確信が、いっそう深まっていきました。

※法友
法の友。同じく主の教えを学び、共に切磋琢磨し合っていく仲間のこと。

運命が好転しはじめた

運命が好転しはじめた

今思うと、信仰の力で悪霊が剥がれたときから、私の運命は急速に、良い方向に回りはじめたと思います。

以前から私の体調不良を知っていた知人が、「いいお医者さんが見つかったよ」と紹介してくれた病院を受診すると、甲状腺の働きに異常があることが分かったのです。

仏法真理では、病気の七、八割は心に原因があり、悪霊の憑依から病気になるケースが多いと教わっています。私の場合も、マイナスの心が悪霊を呼び、その悪影響が肉体に現れて、病気になってしまったのでしょう。

仏法真理によるマイナスの心の修正と、薬による肉体面の治療があいまって、私はみるみる回復に向かっていきました。

兄と一緒に精舎に通って一年ほど経つと、精舎で会う方々に、「え? 本当に人吉さんの妹さんなの?」と驚かれました。以前と比べると、まるで別人のように明るくなったと、みなさんも喜んでくださいました。

心の力に気づいて

今、私はとっても元気です。

振り返ってみると、私はもともと霊感が強いタイプで、さまざまな悩みで心が揺れていたときに、悪霊に憑かれてしまいました。さらに、霊媒師のところに通ったせいでますます悪霊が寄って来てしまい、肉体を乗っ取られる寸前まで憑依が進んでしまったのです。

しかし、幸福の科学に出会って、「悪霊と同通しない、天国的な心を持つこと」を学び、日々、祈りと反省を続けていくことで心の波長が変わり、やっと悪霊の憑依を外すことができました。心を変えれば悪霊が離れるという真実をつかんだ今は、悪霊に対して恐怖心を持つこともなくなって、心が伸び伸びと自由になりました。

現在は、自宅に御本尊を安置させていただき、お祈りや反省を続けて信仰生活を送っているので、悪霊の影響を感じることはほとんどありません。

もちろん、今では部屋の写真を撮っても、悪霊の影は写らなくなりました。

私は、主のご慈悲と、たくさんの法友に支えられて、ここまで来ることができました。本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。

今度は私が、見えない悪霊の影響に苦しんでいる人々や、ご縁をいただいた方々に主への信仰と仏法真理をお伝えし、幸せになっていただきたいと思っています。

(※プライバシー保護のため、文中の名前は全て仮名にしています。)

「ザ・伝道174号」より転載・編集